広島高等裁判所岡山支部 昭和26年(う)246号 判決
原審第二回公判調書の記載及び同調書の援用の弁護人本田猛の弁論要旨と題する書面の記載に依れば弁護人本田猛は被告人の利益のため酒税法違反幇助罪はその成立が否定さるべきだとして、(一)幇助罪が成立するには主観的要件として正犯の犯罪事実を認識し且つ之を幇助する意思を必要とするのに被告人は正犯の鮮人の犯罪事実の認識は不明瞭であり尚之を幇助する意思を全然有しない仮りに正犯の犯罪事実を未必的に認識していたとしても之を認容する意思がないことが明らかであるから全体的に見て幇助犯成立の犯意を欠いている。(二)被告人が朝鮮人数名に米麹を売渡した所為は正当な業務によりなした行為と看るべきであるから刑法第三十五条によりその違法性は阻却せられて犯罪とならない。(三)本件幇助犯成立の主観的要件である正犯の犯罪事実を立証する証拠としては大蔵事務官作成の被告人に対する質問顛末書、検察事務官作成の被告人の供述調書以外には何等の証拠が存しない然かもこれ等の証拠は悉く被告人の自白を内容とするものであるから証拠の法則上犯罪事実を認定する価値がない。次に被告人に対し懲役刑については執行猶予の恩典を与えられたいと弁論して居りその趣旨聊か明晰を欠く嫌があるけれども右は単に執行猶予を求めるための情状として述べたのに過ぎないか或は本件酒税法違反幇助罪は成立しないと主張に次ぐ第二次的主張として一応前者とは別個のものであると解すべきか明らかでなく、かように訴訟関係人の主張の中に刑事訴訟法第三百三十五条第二項にあたる理由が含まれて居るか否かが不明であるときは原審裁判所はその主張した者に対してその趣旨の釈明を求めることが望ましく之を釈明しなかつたのは審理不尽の嫌がないではないが原審は本条第二項に該るものとして原判決はこれに対する判断として原審裁判所管内でも川上郡宇治村大字遠原の朝鮮人部落等で焼酎を密造して居たことは公知の事実で之等の朝鮮人が多量の麹を買入れ又は委託加工をするに当つて被告人が本件麹を多量に売渡す際に未必の認識のあつたことを認め得べく前顕証拠により判示事実を認定し得るからとの理由でその主張を排斥したことも所論の通りであるが刑事訴訟法第三百三十五条第二項は単に之に対する判断を示さねばならないと規定して居り何等の制限もされていないが、この判断を示すべき判決は有罪判決であり且つ犯罪の成立を妨げる理由となる事実を肯定する場合は無罪の判決が言渡され(刑事訴訟法第三百六十条)刑の加重減軽の理由となる事実が認められたならばその旨が判決に明示され(同法第四十四条参照)刑の免除の理由となる事実の存在が認められれば裁判所はその旨の判決を言渡さねばならぬ(同法第三百三十四条)点からみるとこの判断は裁判所が主張事実に対して否定的判断に到達した場合に限り示すべきであると解するを相当とする。ところでこの判断を表示する場合には必ずしも訴訟関係人の主張を掲げてこれに対し直接的に判断を示す方法を採ることを要するものではなく、主張する事実に関し却つて反対の事実を認定して、関接的に主張否定の判断を示す方法を採ることも差支えがないので原判決は所論のように説示して居るが帰するところは被告人の麹の売渡の所為は酒税法違反の所為を幇助するような場合は勿論正当の業務でないと判断したことが認められるので原判決には法令の適用に誤はならないから所論は採用できない。